先見性を発揮して展開してきた介護事業
事業の安定運営と着実な成長のためにM&Aを決断
介護保険制度の施行と同時に介護業界に参入した、古参ともいえる株式会社エブリーの創業者が、介護事業の将来性を見据えて行った決断とは?
正確な先見性で、介護保険制度の施行と同時に業界参入
介護事業を手掛けるようになったころのお話をお聞かせください。
元々、営業畑のサラリーマンでしたが、営業所の所長だったとき、「このままでは立ち行かなくなる」と会社の将来に不安を感じ、退職しました。その会社がほどなく倒産してしまったときは驚きましたが、自分の見通しは間違いではなかったとも思いました。
その後、ダスキンのフランチャイズに加盟して、自分の会社を立ち上げ、ハウスクリーニング事業を行っていましたが、転機となったのは2000年の介護保険制度の施行でした。この制度は、マスコミも盛んに取り上げていましたから、私も介護について勉強してみたんです。すると、ダスキンの事業よりも、はるかに効率がいい。そこで制度の施行に合わせて、この業界に参入しました。
もちろん、介護についてはまったくの未経験でしたが、訪問介護、福祉器具のレンタル、デイサービスと3年半ほどのあいだに間口を広げていきました。
ダスキンでの収益を介護事業に注ぎ込むという状態ではあったのですが、全体的には上り調子でしたね。
介護事業への一本化は、どの時点で決断されたのでしょうか?
デイサービスを始めてみて、「これは忙しい仕事だ。ダスキンと二足のわらじは無理だ」と実感したときです。
介護事業を拡大していくなら、ダスキンの事業を手放すしかありません。当時はダスキンの事業を任せられるスタッフもいなかったので、本部に掛け合って、お客様とスタッフをセットで譲渡しました。
とはいえ、立場上、買い手である本部は強気です。今になってみると「ずいぶん安く売ってしまったな」と思いますよ。その点、現在はインテグループさんのような専門の仲介会社があって、売り手と買い手の双方を公平に判定してもらえますから、安心ですね。
介護業界は大規模事業者への集約に向かいつつある
エブリーさんは多くの介護事業を手掛けつつも、サ高住に注力していた印象があります。何か理由があったのでしょうか?
訪問介護をやる中で「これからは入居施設が必要だ」と実感していましたから。ただ、施設を作るとなると、私たちのような中小規模の事業者には、土地建物の負担が大きくて、なかなか手を出せない。
ところが、ある住宅デベロッパーが主体になって、サ高住の新設・運営をパッケージ化したんです。土地のオーナーは建設費の一定額を負担して、そこにデベロッパーが施設を建て、土地ごとオーナーから借り上げる。それを介護事業者にリースして、管理・運営してもらう。
オーナーとしては安定収入が見込めるし、介護事業者は土地・建物の負荷がないから、参入しやすい。このしくみを利用して、サ高住を手掛けました。近年では税制上の優遇措置もあって、空いた土地にマンションではなくサ高住を建てるというオーナーさんが増えているようです。
ただし、先行きは不透明です。まず特養(特別養護老人ホーム)の空き部屋が全国的に増えています。これはスタッフ不足が直接の原因なのですが、「特養がそんなにたくさん空いているなら、サ高住はそれほど必要ないじゃないか」ということになってしまいます。
また、利用者さんの費用負担の大きさも問題です。1割負担から2割負担、さらに3割負担ということになったら、かなり余裕のある方でないとサ高住には入居できません。子供たちで分担するにしてもきびしいでしょう。介護施設の利用負荷は大きくなり、その一方で年金が減らされていくのでは、利用者側のメリットが削られるばかりです。
それでは、今後の介護業界で中軸を占めるのは何だと思われますか?
今後は、有料老人ホームが増えていくでしょう。部屋の広さや設備など、各種規制が緩く、コストを抑えることができます。部屋が少し狭くなっても、その分家賃を下げればいいのです。例えば生活保護を受けている方の家賃補償額に合わせていけば、受け入れられやすいでしょう。
ただし、生活保護が絡んでくると、やり方次第ではいわゆる「貧困ビジネス」の色が濃くなってきます。できるだけコストを抑えて部屋を作り、上限いっぱいまでサービスを詰め込み、行き場のない人を引き込んでいく。実際にこうしたやり方は、すでに行われていますし、業者間での「客」の奪い合いになってしまっているようです。
今後の存続の可否を分ける事業規模は?
M&Aを考えたきっかけは何でしょうか?
ここ数年の行政の動きや、関連法規の改正内容を見ると、中小事業者に対するきびしさが増しています。
行政は「人を増やせ、賃金を上げて有給休暇を増やせ」といいます。でも、それでは事業が回りません。真面目にやればやるほど、苦しくなるんです。正直、行政のやり方を見ていると、矛盾とまではいわないまでも、整合性に欠けるところは多々ありますね。
行政から特定事業所加算を得ようとしても、最も区分が高い「1」を取るためには、常勤の主任介護支援専門員が2人以上、介護支援専門員が3人以上働いている必要があります。もちろん、雇用するには人件費がかかりますし、彼らが転退職してしまったら、すぐに人員を補充しなければなりません。
そうした負荷を回避するには、事業規模を大きくするしかないのですが、中小事業者がそう簡単に拡大することはできません。介護制度や関連法規も、これからどう変わるかわからない。それなら今のうちに、大きな資本を持った大手の傘下に入り、事業を安定させたほうがいい。そこから、M&Aという選択肢が出てきました。
「規模を大きく」というお話がありました。具体的にどれほどの事業規模が必要だとお考えですか?
事業内容によって変わってくると思いますが、年商3億円以上というのがおよそのラインでしょう。
中小事業者が淘汰されて、大規模事業者に集約していくというのが行政側の思惑でしょうから、介護事業を安定的に続けるためには、規模をどんどん大きくしていかなくてはなりません。
ただ、拡大するにも限界があります。規模が大きくなればなったで、規制による縛りも強くなりますし、人材確保の問題もあります。中小事業者にとって、これからはいろいろな面で負荷が高まるばかりでしょう。
社内の動揺を回避するには、キーパーソンの顔を立てること
M&Aを進めていく過程で、社内での問題や動揺、不安はありませんでしたか?
特に大きな問題はありませんでしたね。
社員にとっては、自分たちの処遇がどうなるかが最大の関心事ですが、「文書で約束を取り交わすので心配ない」ということを、しっかり伝えました。
また、現場をよく知っているベテランが辞めずに残ってくれたのも幸いでした。人ありきの介護事業で人がいなくなることは致命的ですから、一番重要なポイントだと思います。
M&Aが終わり、今のお気持ちは?
やはり少々の寂しさはありますが、隠居するつもりはありません。今後は経験を活かして、介護事業のコンサルタントやM&Aのお手伝いなどをやりたいですね。
介護業界でのM&Aはますます増えていくと思いますが、私が伝えたいのは、信頼できる仲介業者に任せるべきということです。売る側と買う側、双方の利益を最大にするには、経営者同士で話し合っていてもうまくいきません。インテグループさんのような、専門の会社さんにお願いすることが大切だと思います。
M&Aを成功させるためには、仲介会社選びが最大のポイント
数あるM&A仲介会社の中から、インテグループをお選びいただいたのはなぜでしょうか?
M&Aを検討し始めたとき、実はインテグループさん以外にも何社か声をかけたんです。ただ、「ここなら安心」と思える会社がなかった。
料金設定が細かくて、M&Aが成立しなくても結構な料金を取られるようなしくみになっていたり、実態からかけ離れた話が多かったり…。悪い言い方ですが「調子のいい話」、いわゆるオーバートークが多すぎる。
私自身が営業出身ですから、オーバートークはすぐにわかるんです。営業ノルマと歩合制をとっている会社だと、こうしたスタイルになってしまうのかなと思いますが、いずれにしても誠実とはいえないし、信頼もできない。
ところが、インテグループさんは完全成功報酬制だし、業界のことや私たちのような中小事業者の事情もよく理解されていたのが決め手でした。
仲介会社を見極めるポイントはありますか?
実際には1億円ほどの売却価値であるところを「3億円で売れる」と言われたら、売り手はそちらを選びたくなるでしょう。でも、その額に根拠がなければ意味がありません。そうしたオーバートークにのせられてしまうのが一番怖いですね。
見極めは簡単ではありませんが、一番大事なところです。まずは「営業マンの調子の良すぎるトークには警戒せよ」というところでしょうか。
繰り返しになりますが、今後、介護業界でのM&Aはますます増えていくでしょう。ですが、M&Aにあたっては、仲介会社さんを慎重に見極めることが最も重要です。